ブラッドルート一章
ゲーム体験版シナリオ

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廃墟と化したひとけのないビルの中。

コツコツと数人の足音が聞こえてきた。

陽向「助けっ! っ……んんっ……!」

咄嗟に声を上げようとしたものの、すぐさま口を押さえ込まれる。

そのまま、あっという間に口元にテープを貼られ……。

陽向(ダメだ、これじゃ声を出すこともできない)

それに、体はロープで縛られ固定されてしまっている。

ここから逃げ出すなんてことは……。

そう考えている間にも、足音は次第に近付き……僕が監禁されている部屋のすぐとなりで止まった。

壊れかけたドアの隙間から、わずかだが向こうの様子は窺える。

男、3人組。

みんな、ギャング風の男達だ。

???「くそっ、66のブラッドじゃないか」

僕を拘束している男が、舌打ちをしながら呟く。

どうやらマズイ状況になったのは確からしい。

やってきた3人組の容貌を見ると、僕にとってもさらに悪いことになったのか、それとも……。

ブラッドの友人A「なあ、ブラッド、お前も仲間に入れって」

ブラッドの友人B「ずっとつるんできた仲間だろ」

ブラッドの友人B「それにこれは、同士達みんなのためにすることなんだぜ」

ブラッド「仲間達のためになることは、分かってるって。けどなあ……」

やってきた男達の会話は、やや物騒なもののように思えた。

それに、今僕を捕らえている男も、知っているくらいの名の知れた男なのだ。

ブラッド「いくらオレらの声を聞いてもらいたいっつってもさ、一般人が巻き込まれるだろ」

ブラッドの友人A「んなの仕方ねえし」

ブラッドの友人B「お前って、元々そんな奴じゃねえだろ」

ブラッドの友人B「みんなが一目置く、リーダーっつうかさ……もっと喧嘩っぱやい奴っつうかさ」

ブラッドの友人A「もっと尖ってて、危ない奴だったじゃねえか」

と、その時、またひとつの足音が聞こえてきた。

ブラッドの元彼「まだ、話はつかないのか」

ブラッド「…………」

ブラッドと呼ばれた人物が、深いため息をついたのが分かった。

やって来たのは、他の男達と雰囲気は似ているものの、スーツ姿である。

ブラッド「何だ、別にお前まで来る必要ねえだろ」

ブラッドの友人A「俺が呼んだんだ。恋人がいた方が、ブラッドも説得しやすいだろ」

空気が少し変わった。

ブラッド「……くくっ……それなら残念だったな」

ブラッドの友人A「何?」

ブラッド「こいつとは、昨日別れ話をしたばかりだ」

ブラッドの元彼「納得したわけじゃないが」

ブラッド「はあ? 納得しろよ! 元々は、お前の浮気が原因だろうが。見境なく欲情しやがって!」

ブラッドの元彼「それくらいでグダグダ言うな」

ブラッド「それくらいだあ!?」

陽向(どうなってるんだ!)

陽向(あっちでもこっちでも、大変なことになっちゃってるよ!)

扉の向こうからは、一触即発な雰囲気がビシビシと伝わってくる。

陽向(このまま、ここでおとなしく監禁されてたってラチが明かない……)

陽向(それは分かってるけど、どうしたら……)

陽向「んっ……んーっ……!」

???「騒ぐな。静かにしろ」

陽向「うぐっ」

必死で声を絞り出したものの、殴りつけられてしまった。

ブラッドの友人A「まあ、返事は急がねえし、とりあえず落ち着いてくれよ」

ブラッド「オレは落ち着いてるさ」

ブラッドの元彼「僕もだ」

ブラッドの友人A「はぁ……」

僕が色々と考えている間にも、話は進んでいる

ブラッドの友人B「とりあえず、考えてみてくれよ、ブラッド」

ブラッドの友人B「痴話喧嘩のために呼び出したわけじゃねえし」

ブラッドの友人A「そうだな……」

ブラッドの友人A「まあ俺達は、ブラッドがまた昔のように仕切ってくれれば助かるからさ。覚えといてくれ」

ゾロゾロと男達が去って行く。

この場はひとまず解散のようだ。

男達が解散するのを見て、僕は必死で暴れ始めた。

陽向「ううーっ! ……んーっ!」

???「おいっ、静かにしろよ」

すると。

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ブラッド「誰かいるのか?」

低く鋭い声が飛んできた。

一瞬、ビクリと動きを止めるものの、気づいてほしくてまたすぐに暴れてみる。

陽向「んんーっ! んー!」

???「ちっ……」

足音がこちらへ近づいてくる。

陽向(気づいてくれたんだ! 助かった!)

陽向「んんんーっ!」

ギイッと軋んだ音を立てて、僕のいる物陰に男が立った。

陽向「っ!」

ブラッド「…………?」

男は、縛られている僕とそばにいる男を見て眉をひそめた。

そして冷たい目で睨みつける。

ゾクリと背筋に冷たいものが走った。

ブラッド「ここで何してる」

凄みのある、これまた冷たい声だった。

???「ここ、66のシマだったんだね」

???「シマを荒らして悪かったよ」

ブラッド「そんなことを聞いてるわけじゃない」

ブラッド「いかにも弱そうな奴を縛り上げて、口封じまでして、何してんだって聞いてる」

???「そんな、弱い者いじめみたいな言い方ひどいなあ」

???「落とし前をつけさせてるだけだよ」

ブラッド「両手を上げろ」

ブラッドは、男の言い分などまるで信じていない様子で冷たく言い捨てる。

男は、ゆっくりと両手を上げた。

ブラッドは男を一瞥し、ボディチェックを始める。

すると、ポケットから袋が出てきて……。

ブラッド「これは何だ」

ブラッドが男の前にその袋をかざし、ドスをきかせる。

僕までピクリと体が震えた。

???「…………」

男は悔しそうに歯がみし、そうするとブラッドは袋を床へ叩きつける。

そして袋を乱暴に踏みつけると、白い粉が床に散らばった。

???「何するんだよっ!」

ブラッド「オレのシマでヤクはさせねえ」

ブラッド「そういう決まりだ」

???「…………」

床に散らばった粉にチラリと視線をやってから、男はブラッドの目を見据える。

???「何、綺麗ごと言ってるんだよ」

???「66の奴らだって、ヤクくらいやってるに決まってるさ」

ブラッド「何だと? 見つければ、即刻やめさせる」

ブラッド「社会復帰できなくなるようなことは、ここでは御法度だ」

???「ふんっ、社会復帰って何だ」

???「そんなもの、僕等にできるはずもない」

ふたりの間に、ピリピリとした静寂が横たわる。

ブラッド「社会に出られないと思ってる奴は、一生出られない」

ブラッド「お前は今、オレに喧嘩を売ってんのか」

???「そんな!」

男の顔が、我に返ったように青ざめる。

???「ブラッドに喧嘩を売るほど、馬鹿じゃない」

ブラッド「……じゃあ消えろ」

ブラッド「それから、落とし前なら自分達のシマでやれ」

???「ああ……悪かった」

男は悔しそうにしていたが、立ち去るつもりなのか、僕の体に手をかけた。

陽向(マ、マズイ……!)

陽向(このままじゃ、またどこかに監禁されて……)

陽向(助けて……)

僕はブラッドに助けを求めるように、必死で彼を見つめた。

彼も、強い眼差しで僕を見つめ返す。

すると――。

ブラッド「ちょっと待て」

陽向「っ!」

ブラッドが声をかけた。

???「何……」

ブラッド「どうしてわざわざ口を封じてるんだ。殺すのか」

陽向「っ!?」

全身に鳥肌が立つ。

予想していなかったわけじゃないけれど、考えないようにしていたことだ。

???「……君には関係ないんじゃないかな」

ブラッド「そうだな」

ブラッド「けど、そんな捨て犬のような目で見られちゃ、一言、言いたくもなるだろ」

ブラッドが近づいてくる。

僕は身構えながらも、やっぱり救いを求めるような目で彼を見てしまった。

ギャングとして名を馳せてきたにしては、透き通った瞳。

こくりとつばを飲み込む。

???「こ、これから落とし前つけさせるんだから助けてほしくもなるでしょ」

ブラッド「ああ。ルールはルールだしな」

ブラッド「けど……」

陽向「っ!? ぐっ……」

ブラッドが、バリバリと僕の口を封じてあるテープをはがしていく。

皮膚が剥がされそうな痛みに、涙目になりながらも感謝をする。

陽向(助かるかも……!)

陽向「た、助けてっ!」

テープが剥がされた瞬間、声を上げた。

陽向「何が何だか分からないうちに、こうなっちゃったんです!」

陽向「僕は何もしてないっ!!」

???「うるさい! 変なこと言うなっ」

陽向「だって、こんなの君がっ……!?」

バシッと大きな音が耳元で弾けた。

頬の熱さで殴られたことを思い知るものの、痛みは遅れてやってくる。

陽向「うっ……ううっ……」

口の中を切ったのか、よだれと一緒に血が滴った。

しかしブラッドは、僕達の様子をただ見ているだけ。

陽向(助けてはくれないの!?)

???「ブラッド、こいつの言うことは何も信じなくていい」

???「さっさと消えるから、放っておいてくれ」

陽向「イヤだっ!」

???「静かにしろ!」

ブラッド「面白いじゃねえか」

陽向「え……?」

???「……?」

ブラッドの発言に、僕も男も動きが止まる。

ブラッドは、僕達を見ながら本当に愉快だとでも言うようにニヤリと笑っていた。

ブラッド「そいつの痛がる顔、いいな」

ブラッド「だからお前もこうして拘束して遊んでんのか?」

???「なっ……」

ブラッドのニヤついた雰囲気に、男は絶句する。

かくいう僕も……。

陽向(何なんだ! みんなして!)

と、心の中で叫んでいた。

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ブラッド「しかし、可愛い顔に傷をつけるのはオススメできねえな」

ブラッド「狙うならボディにしとけ」

くくっと楽しそうに、ブラッドが笑う。

???「何がしたいんだよ」

ニヤつくブラッドに、男は苛立った様子だ。

僕だって、何が何だか分からない!

ブラッド「別に。ただオレは……」

ねっとりとした視線で僕を見ながら、ブラッドは僕の顔を持ち上げじっと見据える。

その瞳の中に僕が映っていた。

心臓がバクバクと音を立てている。

ブラッド「こいつが気に入っただけだ」

ブラッド「かわいそうに。綺麗な頬が赤くなってるじゃねえか」

陽向「なっ……!」

ねめつけるような視線と声に、カッと顔が熱くなる。

???「……邪魔をしたいってこと?」

ブラッド「別に。そんなことは思ってねえよ」

ブラッド「こいつが、こーんな何も知らねえような顔してルールを破ったのなら、罰されて仕方がない」

ブラッドは、僕の顔からやや乱暴に手を放す。

???「それなら、邪魔しないでくれる?」

陽向「待って! イヤだ、助けて!」

陽向「本当に、僕はただの被害者なんです」

陽向「悪いことなんて、何もしてないのに!」

ジロリと、ブラッドが男を睨みつける。

陽向「う……」

それから、再度、僕へ視線を向けた。

ブラッド「どういうことだ。話してみろ」

陽向「!」

陽向(良かった……)

陽向「僕は留学生としてここに来て、契約してたアパートに行くと、この人がいました」

???「嘘だ」

陽向「友達と……お酒を飲んだりしているようでした」

陽向「そうしたら、今度は警察が来て、一度はこの人が助けてくれたんだと思ったけど」

陽向「今度はここに監禁されたんです!」

???「まったくの作り話だね」

陽向「本当に訳が分かりませんっ」

必死で訴えかける。

本当に、散々な成り行きだったのだ。

留学初日、契約したはずのアパートには見ず知らずの柄の悪そうな人達。

どうして、と問い詰めている間に警察に追われ、こんなことに……。



――回想――

『一週間でいいからさ、ここでおとなしくしててよ』

『朝と夜は来てやるし。飢え死にされちゃ困るからね』



ここへ来た時の、男の言葉が蘇る。

自分は一体、どんな犯罪に巻き込まれてしまったのだろうと恐ろしかった……。

ブラッド「その話は本当か」

???「嘘だ! こいつはうちの仲間だ!」

陽向「違うっ!」

ブラッド「…………」

ブラッドが、じっと試すように僕を見ている。

陽向「信じてください! 僕を助けてっ!」

助かるチャンスはこれが最後だと思い、声を大にする。

ブラッドは、何か考えるように僕を見ていた。

陽向「ブラッドさん……どうか僕を信じてください」

陽向(このまま死ぬなんてイヤだ)

陽向(絶対にそれだけはイヤだ……!)

そう強く思った。

ブラッド「ブラッドさん、か……。神に誓うか?」

陽向「! はいっ!!」

ブラッドが、今度は少しだけ優しげに笑った。

???「ぼ、僕だって、神に誓うさっ!」

慌てて口を挟んだ男を、ブラッドが睨みつける。

ブラッド「悪いけどさ……オレって、けっこう人を見る目はあるつもりなんだよな」

???「な……」

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ブラッド「こいつはオレがもらっていく」

陽向(ああ、神様っ!)

陽向「ありがとうございます!」

僕が縛られているロープにブラッドが手をかけた、その時だった。

???「う、動くな……!」

陽向「え……?」

目の端に捉えた光るものは……。

陽向(ナ……イフ……?)

凍りつく。

その切っ先は真っ直ぐブラッドに向かっていた。

恐ろしさと共に、焦りが、どっと噴き出すように湧き上がる。

自分を助けようとしたがために、この人が死んでしまったら……?

僕は……僕は…………。

ブラッドルート二章
ゲーム体験版シナリオ

緊迫した空気の中、男の短く浅い呼吸だけが響いていた。

目の前には、ナイフをつきつけた男と、ナイフをつきつけられた男。

イヤな汗が、つうっと伝う。

それなのに……。

ナイフをつきつけられた状態のブラッドは、顔色ひとつ変えず男を見ている。

ブラッド「どうした、手が震えてねえか?」

???「ふ、震えてなんか!」

男の握ったナイフは、確かに小さく震えている。

ブラッドに怯えてるのか、それともナイフを持つことが怖いのか……。

それは僕には分からない。

ブラッド「まあ、これで何となく状況が分かってきた」

そう言うと、ブラッドは僕が縛られているロープを解き始めた。

平然とした表情だ。

陽向(この人って……スゴイ!)

よくこの状況下で……と、驚いてしまう。

???「や、やめろっ! じゃないと本当にやっちゃうよ!」

ブラッド「そんなに腰が引けた状態で、やれるはずないだろ」

???「できるさ!」

陽向「ブラッドさん……」

不安になり、ブラッドを見る。

と、ロープがほぼ解かれた時。

陽向「っ!?」

ナイフが宙を切り裂いた。



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陽向「……!」

ブラッド「…………」

思わず声を上げそうになったものの、ブラッドが僕を守るようにしてナイフをかわした。

???「くそっ!」

再度、男はナイフを振りかざす。

陽向(危ない……っ!)

けれどまたしてもブラッドはナイフをかわし、今度はナイフを持った男の手を握った。

???「くっ……離せっ!」

ブラッド「じゃあ、ナイフを捨てろ」

???「イヤだ」

ブラッド「捨てなければ、この手がどうなっても知らないぞ」

???「ぐっ……うわああっ!」

ブラッドが男の手をねじる。

男は、叫び声を上げながらも、きつくナイフを握り締めていた。

ブラッド「ナイフを捨てないってことはつまり、この手をねじり上げようと骨を折ろうと、構わないってことだな?」

???「なっ……」

陽向「ブラッドさんっ」

恐ろしいことだと思い、とっさに制止させるような口調になった。

ブラッド「何だ、お前。止めるのか?」

陽向「だ、だって……」

ブラッド「とんだお人好しだな。お前を捕まえてた奴に対して」

陽向「…………」

確かに、それはそうだけど……。

陽向「あの……そこまでしなくても……」

ブラッド「これくらいしねえと、無理だろ」

???「うっ、ぐあっ!?」

ブラッドがついに、男の手をひねり上げた。

男の手からナイフが滑り落ちる。

ブラッド「えーっと、何々?」

男の手から滑り落ちたナイフを拾い上げたブラッドは、それと同時に何かを手にしていた。

ブラッド「ナイフの他に、ちゃっかり銃も持ってやがったか」

???「なっ……いつの間に!」

陽向「?」

ブラッドの手には、ナイフの他に拳銃と財布が握られていた。

男の顔が青ざめていく。

ブラッド「つうかお前がエイジか。最近ここらで悪さしてるっつう」

エイジ「な、何だよっ! 返せ!」

財布の中を物色し、男の素性をつきとめたブラッドは、ニヤリと笑っている。

ブラッド「返してほしければ、オレの質問に答えろ」

ブラッド「銃も持ってんのに、あえてナイフを使ったのはどうしてだ」

ブラッド「こいつを『今は』殺せない理由でもあるのか」

エイジ「…………」

男、エイジが一歩、後ずさる。

かと思えば、バッと踵を返し駆け出した。

ブラッド「ほら、返してやるよ!」

エイジの背中に向かって、ブラッドが財布のみを投げ渡す。

エイジはそれを受け取ると、一目散に逃げ出した。

陽向「あ、あの……ありがとうございました」

エイジが去り、改めてブラッドに礼を言う。

ブラッド「いや。しかしお前、災難だったようだな」

陽向「はい……」

ブラッド「ま、この辺ではしっかり気をつけることだ。あんま言葉上手くねーし、まだ留学してきたばっかなんだろ?」

陽向「そうなんです。初日から驚きました……」

ブラッド「今回は、たまたま助けてやれたから良かったものの……」

ブラッド「あ、そうだ。ちょっと待て」

ブラッドが、ごそごそとポケットを探る。

それから名刺を1枚、差し出してきた。

ブラッド「オレ、その名刺に載ってるバーで便利屋やってっから。何かあったら連絡して来いよ」

陽向「便利屋……?」

ブラッド「あー……っと、便利屋っつったら、アレだ……」

ブラッドは、何と説明すべきか悩んでいるのか、首をひねった。



便利屋が分からないなら来てみろよ、とブラッドに誘われ、ビルを出た。

しかし今更ながら、こうして信用して着いて来てよかったんだろうか、と不安になる。

だってエイジの時も、警察から助けてくれたと思って着いて行ったら、監禁されたのだ。

陽向(うう……どうしたらいいんだー!)

思い悩みながらも、ブラッドと一緒に歩いている。

頭の中ではぐるぐると色んな心配が回ってるっていうのに、僕の足はちゃんと進んでいる。

ブラッド「おい、どうしたんだ? さっきから黙りこくって」

陽向「あ、いえ……えっと……」

僕はそこでやっと、立ち止まった。

陽向「……信じて、いいんですよね?」

ブラッド「何だ、今更。オレって一応、恩人だろ?」

陽向「そ、そうですよね! すみません」

ブラッド「まあ、でも、初対面の相手を簡単に信じないのは、いい心掛けだ。エイジみたいな奴もいるわけだし」

陽向「……はい」

陽向「ブラッドさんは、信じていいんですよね……?」

じっとブラッドを見ながら、問いかける。

するとブラッドも、じーっと僕を見返していたかと思うと。

陽向「わっ!?」

ブラッド「くぅぅーっ! お前って、マジで可愛いなっ!!」

むぎゅうっとブラッドが抱き締めてきた。

びっくりして心臓が飛び跳ねる。

陽向「なななな何するんですかっ!」

ブラッド「可愛いから抱き締めてる」

陽向「か、可愛いって! 僕、男ですよっ!?」

ブラッド「あ?」

陽向「だから僕、男ですってば!」

ブラッドがゆっくりと、僕から体を離す。

そして、改めてまじまじと僕を見つめた。

ブラッド「お前、男?」

陽向「はい!」

ブラッド「ふうん……へえ……」

ブラッドは、とても物珍しいものを見るかのように、僕を見ている。

そして。

ブラッド「じゃ、なおのことラッキー♪」

陽向「!?」

そう言って、うれしそうな足取りで歩き出した。

陽向(はああ? どういうこと???)



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ブラッドが連れて来てくれた先は、一軒のバーだった。

陽向「こんな場所に入ったの、僕初めてです!」

興奮してしまい、思わず声が大きくなる。

ブラッド「そっか。お前って、見るからにお坊ちゃんだからな」

陽向「そ、そんなことはないですよ」

ブラッド「けど、きちんとした家庭の匂いがする」

ブラッドは僕の首筋に鼻先を近づけ、匂いを嗅ぐように息を吸い込んだ。

くすぐったくて、少しだけ身をよじる。

ブラッド「あ、マスター!」

何か言い返そうとした矢先、ブラッドが店の奥に向かって手を上げた。

マスター「よお、ブラッド。今日は休みだったよな?」

ブラッド「ああ、今日は客で」

マスター「そりゃ、どうも。しかしなかなか可愛い子、連れてるじゃねえか」

ブラッド「だろ? こいつ、これから落とすから協力してくれよ」

陽向「えっ?」

マスター「そんな純情そうな子捕まえて落とすとは、お前も罪な奴だな」

バーのマスターが面白そうに笑ったのを見て、気が焦った。

陽向「き、聞いてないですよっ!」

ブラッド「言ってないからな」

陽向「ええっ!」

ブラッドは、楽しげに笑っているだけ。

陽向(そう言えば、ブラッドの恋人って言ってたの男の人だったし……)

陽向(ブラッドって、もしかして……もしかして……)

マスター「おいおい、となりの少年、青ざめてるけど大丈夫か」

陽向「……大丈夫じゃないです……」

ブラッド「大丈夫、大丈夫」

ブラッド「落としてみたいけど、まずは人助けが先だからな」

マスター「ほう?」

ブラッド「マスター、とりあえず何かちょうだい」

マスター「はいよ」

よく分からない展開のまま、話は進んでいく。

マスター「へえ。そりゃ、とんだ災難だったな」

陽向「はい……」

マスターは僕とブラッドに飲み物を出してくれ、その後、僕のこれまでの経緯を聞くと深く頷いた。

マスター「じゃ、とりあえず、ブラッドに守ってもらってればいいんじゃないか」

陽向「えっ?」

ブラッド「何言ってんだよ。しばらく仲介しかするなって言ったの、マスターじゃん」

そう、つまり。

ここは、表向きはバーというものの、裏では、裏社会の便利屋をやっているらしい。

詳しい内容は教えてもらえなかったけれど、本当に何でも屋だと言っていた。

マスター「その辺は、臨機応変に、だな」

マスター「な? 陽向」

陽向「え、えっと……」

ブラッド「…………」

ブラッドの反応を窺う。

ブラッドは、困り顔でグラスのお酒を飲み干した。

マスター「そういやブラッド、この前もアレンが家賃の取り立てに来たぞ」

マスター「お前、また未納だったみたいじゃないか」

ブラッド「う……」

マスター「陽向の依頼は、うちを通す必要はないから受けてやれ」

マスター「こんな世間知らずの純朴少年、この社会にひとり身で解き放てば、俺でも胸が痛む」

ブラッド「あんたに痛む胸があったのか……」

マスター「うるさいぞ」

カタンと、マスターがブラッドの前におかわりのグラスを置いた。

陽向「じゃ、じゃあ家賃は折半しますから!」

勇気を出して、ブラッドに言う。

ブラッド「はあ? 安すぎるし」

ブラッド「このオレに依頼するんだったらな―――いてっ」

陽向「あ……」

コツンと、マスターがブラッドの頭を指で弾いた。

マスター「陽向、こいつの言い分は無視していいからな」

マスター「俺がきっちり依頼しておいてやる」

陽向「あ、ありがとうございます……」

マスター「とりあえず1週間くらいか?」

マスターの言葉に、エイジが言っていたことを思い出す。

1週間ここにいろ、と……。

陽向「はい、助かります」

マスター「じゃあ分かったな? ブラッド」

ブラッド「はいよっと。まあ、陽向って好みのタイプだからOKしとくか」

ブラッドは、ニカッと笑って僕を見た。



その後、ブラッドが誰かに話しかけられ、席を立った。

何となく話が途切れた形になり、ついでにお手洗いに立つ。

すると……。

ブラッド「……ふうん。で?」

警察官「協力をしてほしい。君のチームの奴らだろう」

(この声、ブラッドだ……)

立ち聞きをするつもりはなかったけれど、筒抜けな会話に思わず耳を傾けてしまう。

警察官「今回のデモは、かなり危険なものになりそうだ。だからこちらも先手を打ってだな」

ブラッド「けどさ、それは政府が悪いわけだから、自業自得じゃね?」

ブラッド「高校に行きたくても行けなかったり、働きたくても働けなかったり、そういう奴らのデモだ」

ブラッド「66の奴等が発起人だとしても、ギャングとは関係ない奴等もきっと、いっぱい参加するし」

警察官「そうは言ってもだな、自分達警察は、市民の安全を守るのが仕事だ」

警察官「協力してくれれば、父親に会わせることもできる」

ブラッド「何? どうして警察が親父を……」

警察官「実は保護していた。少々事情があってな……」

ブラッド「そんな……」

聞いてはいけない会話を聞いてしまった気がした。



★体験版終わり